「換価の猶予」という法的猶予制度
税金を一括で納さめきれないときに払える額で分割納付できる「換価の猶予」制度の活用が広まっている。
従来の税務署長の職権によるものに加え、昨年4月に「申請型換価の猶予」が創設され、許可される件数も格段に増えた。
認められた方からは「延滞税の心配をせずに安心して分納できる」との声が寄せられている。
- 消費税63万円を「換価の猶予」申請
- 消費税45万円を「換価の猶予」申請
- 「換価の猶予」を8人が申請
消費税63万円を「換価の猶予」申請
静岡県沼津市のヨイ子さん(仮名)=建設土木=はこの日、消費税32万円を納め、残りの63万円について「換価の猶予」を申請。
4月から来年2月までの間に10万円ずつを6回に分けて納付し、残りを7回目に納付する計画だ。
8月に予定納税で30万円ほど納付するため6月から8月までは納付額をゼロにした。「機械の借入が完済するので、その分を納付に充てる」と説明し、申請したその場で認められた。
多くの人に「換価の猶予」を
12社ほどある取引先の2次下請けだが、消費税を完全に転嫁できず、昨年は、親戚から借り入れて60万近くの消費税を一括で納付。
「消費税が8%に上がった影響で一括では納めきれないと思っていた。申請書を書くのも思ったよりも簡単、多くの人に活用してほしい」と話している。
消費税45万円を「換価の猶予」申請
イイ子さん(仮名)=土木解体=も4月6日、換価の猶予が認められた。
昨年は51万円の消費税を税務署に“お願い”して5回の分納にしたが、年9.1%の延滞税がかかった。「3月が近づくと、恐怖を感じる」と表情を曇らせるイイ子さん。
3次、4次の下請けで消費税を上乗せできる状態ではない。消費税の納税額は45万円を超え、「一度に納めきれない」と仕事人グループの学習会に参加した。
3月24日に三島税務署に換価の猶予申請書を提出。署員から「書類はパーフェクト」と太鼓判を押され、「仕事人グループで教えてもらった」と胸を張って答えた。
分納計画を立て分納に
3月から7月まで5回の分納計画を立て、4月から6月までは毎月10万円を納付する。「月10万円は厳しい」と感じたが、できるだけ早く完納をと考えた。
確定申告が終わった直後、夫が腹痛を訴え受診したところ盲腸との診断。今度痛みが出たときは入院でその費用が必要だからだ。
「夫は無駄なお金は使えないと薬で痛みを散らしている。私たちは命と引き換えに消費税を納めている」とイイ子さんは怒りをぶつける。
「換価の猶予」を8人が申請
静岡市でも3月25日に8人が「換価の猶予」を申請。マジメさん(仮名)=木工=は初めての申請だ。
仏壇の製作が中心で、伝票の上では消費税を転嫁できているものの、海外との価格競争に巻き込まれ、売値は低いまま。消費税の負担が厳しい経営に追い打ちをかけている。
今年の納付額は約34万円。これまで一括で納付してきたが、1月から3月までの売上が昨年より3割ほどダウン。仕事人グループの学習会に参加して12回の分納計画を立てた。
「製品開発に挑戦しなければ消費税に立ち向かえない。消費税は業者の営業をつぶす。若い職人が希望を持って仕事を続けるためにも、10%への引上げは絶対に反対」と力を込めている。
(参考:全国商工新聞から)
「申請型」換価の猶予
従来は「職権型」という税務署長の職権による換価の猶予のみであった。簡単に言うと、「認めるも認めないも税務署長次第」みたいな感じの制度だ。
「申請型」換価の猶予は従来の「職権型」に加えるという形で2015年4月に新設された「申請」に基づく換価の猶予の制度だ。
適用されれば、原則1年間(延長制度があり、申請型で最大2年。職権型と併せることも可能で最長6年)。地方税の「申請型」換価の猶予も、4月から実施されている。
換価の猶予
換価の猶予とは、すでに差押えられている財産。または、今後差し押さえの対象となりうる財産。の換価処分(公売)を、一定の要件に該当した場合に猶予し、分納を認める制度だ。
換価の猶予には「申請型」と「職権型」がある。「申請型」のみの要件などもあるので、要件などをチェックし、双方をうまく活用する必要がある。
「換価の猶予」が認められると、
- 猶予期間(最長2年)の延滞税が半分免除になる。
- 認められれば通常、延滞税は9.1%で計算されるが、年率1.8%で計算され、免除の範囲がいっそう拡大する。
- 更に、既に差押えられている財産は公売にかけられない。
特に2015年に新設された申請型「換価の猶予」は申請の87%超が適用され、従来型の職権型「換価の猶予」も以前の3倍の適用が認められ飛躍的に向上している。猶予制度は大きな転換期を迎えている。
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