税金を滞納したことにより自宅などの不動産を差し押さえられた場合に最も重要となるポイントは、差押えを解除できるか。
本記事では、「無益な差押えの禁止」と「無益な差押えの解除」の観点から、差押えの解除が可能であるかを解説する。
- 住宅ローンの支払い中に自宅が税金滞納で差押えられた場合
- 無益な差押えの禁止
- 無益な差押えの解除
住宅ローンの支払い中に自宅が税金滞納で差押えられた場合
住宅ローンを組んだ金融機関はあなたの自宅に「抵当権」を設定している。
「抵当権」とは、住宅ローンを払えなくなったときに金融機関が自宅を強制的に競売にかけられる権利のことで、「抵当権」は複数設定することができるが基本的には設定順に優先順位が付けられることとなる。
「抵当権」に対し、税金の滞納による差押えでは「差押登記」が付けられる。「差押登記」とは、あなたの不動産の登記簿に「差押さえ」と記載された状態となることだ。
「抵当権」と「差押登記」の優先順位は?
抵当権と差押登記はどちらが優先されるかというと、「抵当権の設定登記日」と、差押登記の原因となった税金の「『法定納期限』の期日」の早いほうが優先となる。
■例1:抵当権が差押登記よりも先に設定されている場合
住宅ローンの残債 | 1500万円 |
滞納本税+延滞税 | 300万円 |
抵当権の設定日 | 2018年5月1日 |
滞納発生の法定納期限の期日 | 2018年8月1日 |
差押登記の日付 | 2019年5月1日 |
競売または公売の落札価格 | 1000万円 |
■結果
この場合、抵当権が差押登記よりも先に設定されているため、住宅ローン債権者に先取特権があり、その落札代金は全て住宅ローンの債務に廻される。
このことから、滞納している滞納本税・延滞税300万円はそのまま残る。また、更には住宅ローンの残債500万円も残ることとなる。
■例2:差押登記が抵当権よりも先に設定されている場合
住宅ローンの残債 | 1500万円 |
滞納本税+延滞税 | 300万円 |
抵当権の設定日 | 2018年5月1日 |
滞納発生の法定納期限の期日 | 2016年2月1日 |
差押登記の日付 | 2018年5月1日 |
競売または公売の落札価格 | 1000万円 |
■結果
この場合、差押登記が設定される原因となった滞納発生の法定納期限の期日が抵当権の設定よりも早いため、租税債権に先取特権があり、その落札代金は全て滞納本税・延滞税に充当される。
このことから、滞納している滞納本税・延滞税は強制的に完納となるが、残りの700万円が住宅ローン債権に充てられるが、住宅ローンの残債800万円が残ることとなる。
無益な差押えの禁止
例2ように、抵当権に優先して税金の滞納分が回収できるのであれば、税金滞納による不動産の差押えも有効だ。
しかし、例1のように「抵当権」に先取特権がある場合は、滞納税金の回収が全く見込めない可能性が高い。
ここで誰もが抱く疑問が、この様に「滞納税金の回収が不可能に近い差押えを執行することに何の意味があるのか」とう疑問ではないだろうか?
実は国税徴収法第48条第2項法律では、「超過差押及び無益な差押の禁止」が定められている。
無益な差押えの禁止条項
「差し押えることができる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先だつ他の国税、地方税その他の債権の金額の合計額をこえる見込がないときは、その財産は、差し押えることができない」この規定を「無益な差押えの禁止条項」という。
要するに、差押財産価格< 滞納国税+滞納地方税+他債権+差押えに係る滞納処分費 である場合は、差押えることはできない。ということだ。
しかし、実際の徴収行政の現場では、明らかに回収が見込めない場合でも「無益な差押え」が執行され差押登記の設定が乱発されている。
なぜこのような差押えが可能となっているかと言うと、不動産の評価額は鑑定人により異なることから、評価が出るのを待っていると差押のタイミングを逃してしまう。そのため、優先する抵当権があり滞納税金の回収見込みがない場合でも、差し押さえることは違法ではないとの判例があることからだ。
実際、この判例を基に、国税庁による法令解釈通達でも「無益な差押にはならない」とされている。まぁ、嫌がらせ以外の何物でもない。
無益な差押えの解除
国税徴収法では、「無益な差押の禁止」と同時に「無益な差押の解除」についても規定している。
無益な差押えの解除
国税徴収法第79 条第1 項第2 号は「差押財産の価額がその差押に係る滞納処分費及び差押に係る国税に先だつ他の国税、地方税その他の債権の合計額をこえる見込がなくなったときは、差押えを解除しなければならない」と定めている。
差押えの解除の要件
具体的には、国税徴収法第79条では、次の各号のいずれかに該当するときは、徴収職員は差押えを解除しなければならない。と定められている。
一、納付、充当、更正の取消その他の理由により差押えに係る国税の全額が消滅したとき。
二、差押財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び差押えに係る国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなつたとき。
三、徴収職員は、次の各号のいずれかに該当するときは、差押財産の全部又は一部について、その差押えを解除することができる。
1.差押えに係る国税の一部の納付、充当、更正の一部の取消、差押財産の値上りその他の理由により、その価額が差押えに係る国税及びこれに先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を著しく超過すると認められるに至つたとき。
2.滞納者が他に差し押さえることができる適当な財産を提供した場合において、その財産を差し押さえたとき。
3.差押財産について、三回公売に付しても入札又は競り売りに係る買受けの申込み(以下「入札等」という。)がなかつた場合において、その差押財産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に公売に付しても買受人がないと認められ、かつ、随意契約による売却の見込みがないと認められるとき。
「無益な差押えの禁止」と「無益な差押えの解除」による解除
上記のように、「無益な差押えの禁止」と「無益な差押えの解除」に該当する場合であっても、一度差し押さえられた不動産をこの法律を根拠に差押を解除するには高度な交渉が必要であることは間違いない。
まず、差押え解除を目指すにあたり最低限必要なことは、不動産評価額の鑑定書など客観的な証拠を提出しなければならない。
不動産評価額は、不動産鑑定士に依頼して不動産鑑定書を作成してもらう必要がある。しかし、鑑定書の作成には時間も費用もかかるだけでなく、客観的な数的証拠を提出しても、スムーズに差押えを解除できるとは限らない。
いや、そもそも嫌がらせで差押えを執行しているので、「あーだこーだ」といちゃもんを付けてきて差押え解除に応じようとしない場合がほとんどだ。
税金の滞納による自宅や不動産の差押えの解除には
これまでにお伝えしてきた通り、税金の滞納により自宅などの不動産を差押えられた場合、解除や公売を回避することはそう簡単ではないということが分かっていただけたかと思う。
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